商工業上の利潤

 今私はその利害の衝突についてくわしく説明する余暇をもたぬけれども、要するに英独両国はすでに製品輸出の競争時代を経て資本輸出の競争時代に入りしこと、これがそもそも不和の根元である。 けだし一国の産業がある程度以上の発達をなす時は、商工業上の利潤が次第に集積されて資本が豊富になるために、これを国内の事業に投ずるよりも、むしろその余分の資本はこれを海外の未開国に放下する方、はるかに高率の利益をあげうることとなる。かくて貨物の輸出と同時に資本の輸出が経済上きわめて重大な問題になって来るのである。しかしてかの英国は今より五六十年前早くもかかる時代に到達せしもので、爾来《じらい》英国は南北両アメリカを始めとし、その他世界の諸地方に向かって盛んにその資本を輸出せしもので、現にその資本の利子のため毎年巨額の輸入超過を見つつありし事情は、人のよく知るところである。 英国に次いで資本輸出の時代に入りしものは仏国であった。しかしながら、仏国は次に述ぶるがごとき二個の理由によって、資本の輸出に関してはさして有力なる英国の競争者となり得ざりしものである。その第一理由は、同国における人口増加の停止である。これがため人口一人当たりの富は無論増加せしも、全国における資本増殖の速度は到底英国のごとく盛んなることあたわざりしものである。その第二の理由は、一般にフランス人は保守的なりということである。かかる事情にもとづき、同国の資本は主としてスペイン、ベルギー等の隣国に放下され、世界の資本市場においては到底有力なる英国の競争者となり得ざりしものである。されば久しき間世界の資本市場はほとんど英国の独占に帰していたのである。しかるに近時ドイツはにわかに産業上の大進歩を遂げ、まもなく資本輸出の時代に入りしのみならず、ことに今世紀に入るに及びては、年を追うてますます大規模の資本輸出を試むることとなり、これがため従来ほとんど英国の一手に帰属せし世界の資本市場は、ここに有力なる競争者を加え、英国の利益は日に月にますます脅迫せらるることとなった。かくのごとくにして英独両国の葛藤《かっとう》は結びて久しく解けず、ついに発して今次の大戦となるに至りしものである。 以上はしばらくセリグマン教授の解釈に従ったものであるが(同氏著『現戦争の経済的説明*』による)、私が今この事をここに引き合いに出したのは、これらの諸国が資本輸出の競争のために幾百万の生民の血を流さなければならぬという事が、ある意味においていかにも不思議であるからである。

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